スタートアップの資金調達 時価総額の交渉をする本当の理由
投資家さんがもし、「投資したい」と思ったら、会社の時価総額について本格的に話し合うことになってきます。
でも、高い時価総額で決まれば会社の勝ち、低い時価総額で決まれば会社は負け、そんなゲーム感覚の勝ち負けで話し合いをするわけではありません。
ではなぜ会社は時価総額の交渉をするのでしょうか?
これは、今後の資本政策、つまり、将来どんな株主がどれくらいの株式を持っているのが理想的か、という株主構想と密接に関係してきます。
将来の資本政策を描く時、私が考えるテーマは3つです。
・起業家の株式シェア
・今後使える株式数
・株主構成のバランス
今日は「起業家の株式シェア」について考えます。
増資は一度ではない。
まず大前提として、増資は創業してから上場までの間で一度だけではありません。シリーズEということを耳にしますが、これはA,B,C,D,そしてEという5つめの種類株式、つまり、5回以上増資をしていることになります。
さて、将来の増資ニーズをすべて見通すのは不可能です。というのは、今は見えていない事業展開や資本提携の機会はきっとあります。なので、これからも増資を重ねてゆく可能性が高いことは頭に入れておきます。
株価が低いと自分のシェアが小さくなる
ちなみに株式シェアの計算式は、所有株式数 ÷ 全体の株式数、です。
増資であらたに株式を発行するとき、
株価が低いと分母となる全体の株式数が多くなるので、株式シェアはより一層減少します。
起業家の株式シェア
私は、起業家の株式シェアを多く保った方が、企業成長の確率は高くなると思っています。
もっとも、起業家自身が株式シェアにあまりこだわらないという方もいらっしゃいますので、それはそれでよいと思います。
個人的には、理想は上場時に51%以上、できれば34%以上あるとよいと考えます。ただ、資本戦略を駆使してゆくと、それ以下になることもあります。もちろん、それで致命的なことにはなりません。
逆に、起業家が自分の株式シェアにこだわりすぎて、必要な資本戦略の手を打たないとすると、折角の事業機会を逸してしまうので、それはよくないと思います。
では、なぜ起業家のシェアを高めに?
あくまで一般論という前提になりますが、スタートアップは、大きな会社に比べたら事業基盤が脆いです。また、会社の成長過程では、人やお金のこと、深刻なサービストラブル、もしかしたら思わぬところで訴訟を受けたりで、しんどいこともたくさんあります。会社によっては、銀行借入で起業家が億単位の金額の保証人になることもあります。
このような状況の中で、会社の命をつなぎ、成長のために体を張れるのは起業家だけです。
自分の子供のためには命を投げ出してもよいと考える親と似ている気がします。そのためには、「自分の会社である」と言えた方がよいと考えます。厳しい状況でも、「自分がなんとかしなきゃ」って自然に思うんじゃないでしょうか?
蛇足ですが、これと対極的なのは、スタートアップが買収された場合です。スタートアップが大きな会社に買収されると、創業者が買収後も1年とか2年とかの在籍を義務付けられることがあります。
でもこのような場合、買収された後の親会社の関わり方がマズいと、起業家の魂が抜けてしまうことがあっても仕方ないかな?と思います。これはケースバイケースで断定できない、という前提ですが、他人の会社になれば、意思決定を他人に仰がなければなりません。自然、最終責任を負えなくなるし、親会社の政治に巻き込まれる。自分の意思で事業展開も資金調達もできなくなる。
買収の契約書で起業家の責任義務をいくらうたっても、心までは縛れません。
その一方で、人間のちからには計り知れない強さがあります。歴史的に事を成してきた人たちを見ればそうですよね。世の中を変えたい、業界に革新をもたらしたい、事業を絶対に成長させたい、多くのお客さんに喜んでもらいたい・・・。
強い意志が必要とされるスタートアップの経営で、起業家の株式シェアは「人間の持つはかりしれない力」を最大限発揮する裏付になるのではないかと考えます。
これは上場した後も同じで、起業家が主導した方が、会社は適切な方向に向かうと思います。大多数の株主を気にしすぎて、判断が曇ってしまうのはよくないような気がします。
ですので増資を重ねても、起業家の株式シェアをなるべく高く保つようにした方が、結果的に株主に報いることになると考えます。
もちろん、投資家さんも事業でやっているので、仕入れ値段となる株価の許容範囲には限界があります。当然ですが、投資家さんにも投資家さんなりの論理やご都合もあります。
なので、起業家は複数の投資家さんと話ができますし、投資家さんもいつでも交渉から降りることができる。
こんな構造になっているので、交渉という手間が生じると思います。