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slackの上場申請書から読みとる、プロダクト勝負の真髄

世の中には、いろんなビジネスチャットツールがあります。
私も過去、仕事でいくつものチャットツールを使ってきました。
どれも特に違和感はなかったですが、「これ、スゲー便利だな」と感じたこともありませんでした。

なので、意識の水面下で、「もう少し使いやすければなー」と、かすかには感じていたものの、特に強い期待もせず、注目もせず、現状を受け入れていました。

そんな2014年の秋頃、トレタでslackを使い始めました。使い始めは特に何も気づきませんでした。しかし、しばらく使っているうちにみんなのメッセージの量が自然に多くなったこと、情報の共有と合意のスピードが早まったことに気づきました。
おまけにメッセージも楽しい表現になりやすいのが不思議。
それでようやく気がつきました。

あれ、これは使いやすいな。

ビジネス向けチャットツールに対して、はじめてこんな印象を持った記憶があります。

その後徐々に、自分がかかわる会社が、1社、また、1社、とslackを使うようになり、現在ではほとんどの会社がslackを使っています。


そのSlack社は、2019年4月26日、ついに上場を申請しました。

会社は上場を申請するとき、S1という申請書を証券取引所に提出します。そしてこの情報はネットで公開されます。S1には、会社やサービスの概要、リスク情報、株式に関する情報、決算数値、主要KPIの推移などなどが記載されています。全部で180ページくらいあり、かつ、小さな文字でびっしり記載されていて、普通は読む気にはならないですね。

でも先日、がんばってSlack社のS1を見てみました。

まず、
・無料・有料を含む利用組織数は60万組織
・DAUは1,000万人
これは2019年1月に、すでにSlack社が公表していた数字ですが、S1にも記載されていました。2015年くらいから右斜め40度くらいで増えてきていると思います。

では、有料の組織数やDAUはどれくらいなのでしょうか?

2019年1月末、88,000組織が有料でslackを利用しているようです。

(S1 Slack Technologies, Inc.)

もしかしたら私の英語の読み方が間違っているかもしれないのですが、以下はSlackの年間売上高を、顧客の課金開始時期別に顕しているのではないかと思います。

(S1 Slack Technologies, Inc.)

たとえば、2015年に課金開始した会社は、その後有料ユーザーを増やして今日の売上に貢献している、つまり、顧客ごとの売上高が年追うごとに増加しているのを顕していると思います。

それで業績はというと、

(S1 Slack Technologies, Inc.)

1$=100円換算で、2019/1期、
売上高は約400億円ですね。
ビジネス向けクラウドサービスが事業開始5年で400億円、は凄まじいですね。

非常にラフな計算ですが、有料ユーザー1人あたり800円/月として計算すると、400億円÷800円÷12ヶ月=400万人くらい、となります。
なので、DAU1000万人の半分近くが有料ユーザーかもしれません。

社員数は2019年1月時点で536名。

赤字は約140億円ですが、以下のバランスシートを見るとその理由がわかります。

(S1 Slack Technologies, Inc.)

キャッシュは840億円ありますし、成長著しいので、赤字になっても先行投資をかけていくのが合理的な局面でしょう。


会社のミッションは、

そしてビジョンは以下の上部に記載してあって、

(S1 Slack Technologies, Inc.)

Our vision is a world where organizational agility is easy to achieve, regardless of an organization’s size.

このビジョンが本当に秀逸と思いました。

なぜなら、たった1つ、「agility(敏捷性)」の実現にフォーカスすることが明確だからです。1つに絞ると、みんな覚えて集中しやすいですからね。
10ケ条とかだと、ぼやけちゃうし、どれも覚えられないw

そして、このビジョンに沿ってプロダクトがつくられている。
つまり、slackのユーザー価値の源は、このビジョンなのではないか、と思いました。

さて、slackのマーケットポテンシャルはどうなんでしょうか?
すでにユーザーは150ヶ国にいるそうです。
たとえばですが、世界のネットがつながる人口が約30億人として、その半分が就労者とすると、15億人くらいが対象者。正確性の乏しい計算ですが、現在の1,000万DAUという規模からすると、まだまだポテンシャルはありそうです。

そして少なくとも日本においては、セールスフォースのような営業組織の気配はなく、口コミ中心で広がっているように思います。

Slack社は早い時期からsalesforceやgoogle driveなど、様々なサードパーティのサービスと連携を進めています。

(S1 Slack Technologies, Inc.)

現在、企業では、多種多様なクラウドサービスを利用しています。それらと連携させることはユーザービリティを引き上げ、slackの利用度と満足度があがり、結果的にはslackを使い続けることになると思います。

結局、多数の類似サービスがある中で、slackが抜きん出ているのは、圧倒的に優れたUXの実現であることは誰もが認めることと思います。たとえば、日本で英語版を使ってもそれほど違和感ないのは、言語に関係なく人間として直感的に動作させるUIだから、というのは間違いないでしょう。

難があるとすると、歩いていても、電車に乗っていても、いつでもslackのメッセージに気づいてしまうことでしょうか。

優れたUXを核として、無料で利用開始のハードルを下げ、納得して有料に移行する。この先も恐らく、Slack社はユーザー価値、つまり、UXをよりよくすることに最大のエネルギーを投下すると思います。

その先に、仮想アシスタント構想、たとえば、日程調整の時に空いている日時の自動レコメンドする、メッセージに基づいて予定を自動的にカレンダーに記入する、ファイルを検索せずに適切なものを一発抽出する、みたいなことがあるのかもしれません。もちろん、slackに蓄積された膨大なメッセージ情報をAIで・・・という文脈もありますね。

いずれにせよ、slackというプロダクトのすべての価値は、「agility(敏捷性)」につながるのだろうと思いました。

Zapposという会社は、靴のECという目新しくない事業を、カスタマーサポート中心の優れた事業にしました。

Slackは、ビジネスチャットというすでに存在していた事業エリアで、UXを徹底的に追求することで、別次元のレイヤーを切り拓きました。

とっても参考になります。

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吉島彰宏(よしじま あきひろ)

時価総額1兆円企業をたくさん輩出したい。起業家アドバイザー。起業成長のアシスト・資本政策が専門。ピースオブケイク、トレタ、クラウドクレジット、DrJOY、QON、ワンダープラネット、JARMEC、ウェルモに関与。

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